戦争映画の傑作「バルジ大作戦」をレビュー

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戦争映画

戦争映画はお好きですか?
世の中には戦争映画が数多く作られています。傑作もあれば今一つな作品もあります。

今回はその中でも特におすすめな作品である「バルジ大作戦」を紹介したいと思います。

バルジ大作戦のあらすじ

1965年公開のアメリカ映画。
1944年12月第二次大戦末期、西ヨーロッパでは連合軍によるドイツ本土攻略作戦が実施され、北ではモンゴメリーの第8軍、南ではパットンの第3軍が進軍中だった。すでに連合軍の勝利は決定的なものに思われていた。
劣勢に立たされたドイツ軍はヘスラー大佐(ロバート・ショウ)を機甲部隊の司令官に任命、悪天候を狙っての一大反抗作戦を実施する。一方、楽観的な連合軍にあって偵察任務に出たカイリー中佐(ヘンリー・フォンダ)だけはドイツ軍の反抗を予想していた。
ベルギー、ルクセンブルクにまたがるアルデンヌ地方からムーズ川を越えてベルギーのアントワープ(オランダ語でアントウェルペン)へ向かうドイツ軍の進軍は、空軍が出撃できないことや工作部隊の活躍もあって順調に進むかに思えたが…。

バルジ大作戦の歴史的背景

第二次大戦末期、北フランスにおいてノルマンディー上陸作戦が実施され、すでにヨーロッパ大陸には連合軍が上陸しています。パリの解放に続きベルギーのアントワープの解放にも成功していた連合軍はオランダ侵攻作戦であるマーケットガーデン作戦を実施しますが、失敗に終わります。
その後体勢の立て直しを成功させつつある連合軍に対し、ヒトラーは北方のイギリス軍と南方のアメリカ軍を分断しようとアルデンヌからの攻勢を仕掛けます。それが本作の作戦で正式名称は「秋霧作戦」、別名「バルジの戦い」「ルントシュテット攻勢」「ラインの守り作戦」とも呼ばれます。
タイトルのバルジとは「突出部」や「出っ張り」を意味する英語で、ドイツ軍の一部部隊が戦線を破り突出したことから名づけられました。

ルントシュテット攻勢はドイツ軍西方総軍司令官ゲルト・フォン・ルントシュテット元帥の名前を取ってつけられました。ラインの守り作戦は連合軍にラインラント防御作戦と誤認させるため名づけられました。

バルジ大作戦の感想・レビュー

戦争映画の傑作として名高い本作にはいくつもの魅力的な点があります。

ヘスラー大佐のドイツ軍人としての魅力

ヘスラー大佐のモデルと思われるのはナチス武装親衛隊(SS)のヨッヘン・パイパーSS中佐ですが、もちろんSSを主人公にできるはずはなく、本作では国防軍の将校として描かれています。また第2装甲師団の師団長だったマインラート・フォン・ラウヘルトが軍事アドバイザーとして参加していることから、彼もモデルの一人だと思われます。
このヘスラー大佐が凛々しくて格好いいんですよね。今でも人気があるドイツ軍将校のコートに身を包んだいでたちは、大人の男という色気を漂わせています。「オモチャではドイツが世界一」という皮肉めいたセリフからも分かるように現実主義者の職業軍人です。

ヨッヘン・パイパーSS中佐はバルジの戦いで最精鋭となるパイパー戦闘団を率いた人物です。パイパー戦闘団はSS第1戦車連隊のIV号戦車、V号戦車パンター計約70両、第501SS重戦車大隊第1・第3中隊のVI号戦車ティーガーII20両の他、SS第2装甲擲弾兵連隊第3大隊、SS第1装甲工兵大隊第3中隊、SS第1装甲砲兵連隊第2大隊、空軍第84突撃高射砲大隊から成る戦闘団です。

連合軍とドイツ軍の丁寧な描写

すでに優位に立ったアメリカ軍のグレイ少将の関心事はクリスマスまでに特別食を兵士全員に配ることです。ドイツ軍の攻勢の可能性をカイリー中佐に進言されても、耳を貸そうともしません。
ちなみにカイリー中佐に冷酷な態度を取りアメリカ本土に帰れというのはプリチャード大佐。階級は少将-大佐-中佐という序列なので、カイリー中佐は強く反論することができません。リアルな軍隊の光景です。

一方ドイツ軍の司令官コーラー将軍は、暖房が利いた部屋、シャンデリアや絵画に囲まれた部屋で、キングタイガー戦車、ジェット戦闘機、V1、V2の模型を作らせ、ドイツ軍の勝利を信じてやみません。命令されてヒトラーの悪口を言った工作部隊の兵士に対して憮然とした表情で「無礼だ」「敵につかまれば銃殺だ」と言います。ヒトラーに心酔するナチス将校という描写を物語の流れでスムーズに説明する脚本が素晴らしいですね。
ちなみにバルジの戦いはヒトラーの発案であり、国防軍の反対にあいながらも作戦を強引に推し進めました。コーラー将軍が作戦に熱心なのは心酔するヒトラーの肝いりの作戦だからということが見て取れます。

なんといっても戦車の歌(パンツァー・リート)の合唱シーン!

ヘスラー大佐が率いる戦車部隊の戦車長はみな若く実戦経験はほとんどない。ヘスラー大佐は「子供ばかりだ」と不平を言います。「この連中は他人だ」とも言いますが、それを聞いた一人の戦車長が歌いだすのがかの有名な戦車の歌、ドイツ語でパンツァー・リートです。たちまち皆が唱和し、合唱が始まります。

~あらしも雪も 炎暑も超えて 我らは進む
鋼鉄の歩み 木枯らしに この生命(いのち)を託し
風をついて 戦車は進む~

右足でブーツを踏み鳴らし全員で合唱するこのシーンは、歌で全員の団結感を醸し出すという屈指の名シーンとなっています。

戦車がいっぱい!

本作には大量のキングタイガー戦車(ティーガーIIもしくはケーニッヒス・ティーガーとも呼ばれる)が登場しますが、実際にはスペイン軍から借りたアメリカ製M47 パットン戦車です。
アメリカ軍のM4シャーマン戦車はこちらも借り物のM24軽戦車が使われています。

キングタイガーはシャーマンの砲撃を楽々と跳ね返します。ところがキングタイガーの砲撃は一発でシャーマンを仕留めます。
キングタイガーに搭載された88mm71口径砲(口径は砲身の長さを砲の内径で割ったもの、大きいほど貫通力が高い)は、当時の連合軍の戦車の正面装甲を貫通できる能力を持っていました。シャーマンに搭載されたのは、76.2mm52口径砲なので性能的には大きな差があります。
キングタイガーの前面装甲厚は150mmに対し、シャーマンは51mmとこれまた比較にならないほどの差があります。正面から撃ち合えばシャーマンが一方的に撃破されるのは映画の通りですね。

リアルで迫力のある戦闘シーン

掩蔽壕にこもっていたアメリカ軍がドイツ軍の戦車を迎え撃つシーン。
小銃部隊、機関銃部隊、迫撃砲部隊が慌てて配置につきます。ロケット弾がうまく装着できなくて怒られているのはライフルグレネード(小銃擲弾)ですね。ライフルグレネードは弾丸が放物線を描きながら飛ぶため、土嚢などから顔を出すことなく発射できます。その反面命中率が悪く、作品内でも見事に外れています。
またバズーカを持つ兵士もいてこちらはキングタイガーに命中しますが、砲塔前面の装甲に当たって弾き飛ばされます。砲塔前面は最も装甲が厚いところで、威力の低いバズーカでは貫通することは不可能です。その後戦車の弱点である履帯に当てて戦車を足止めすることができました。
アメリカ軍の部隊は善戦しましたが、圧倒的な物量を誇るドイツ軍に蹂躙されてしまいます。

また宮崎駿氏の著作には、ドイツ軍の戦車長はすぐに車体から顔を出すために狙撃されやすいという描写があります。この映画でもドイツ軍の戦車長がハッチから顔を出したところを銃撃され、車内に手榴弾を投げ込まれるという描写があります。
このように戦闘シーンがリアルな描写が多い反面、激しく撃ち合っている場面でも戦車長が上半身を出したままのシーンがあるのは、映画的な見栄えを重視した結果でしょうか。

工作部隊が大活躍!

パラシュート降下によって連合軍の背後へ潜入した工作部隊はさまざまな欺瞞工作を行います。
・電話線の切断
・アンブレーヴへの方角を示す標識を入れ替えて、連合軍を迷子にさせる
・オウル川の橋が爆破されていないことを無線で味方に連絡(牛は生きてます)
・オウル川の橋を爆破しに来た連合軍を追い返す
→連合軍の兵士に見破られて掃討されかけますが、そこにドイツ軍の戦車が到着。無事に橋を確保することに成功します。
特に橋の確保は重要で、機甲部隊はもし橋が爆破されてしまうと作戦行動が遅延してしまいます。制空権を確保していないドイツ軍は天候が回復するまでに作戦を終わらせる必要がありました。
史実でも工作部隊は活躍し、作中にあるように流暢な英語でアメリカ軍の大部隊を誤った進路に誘導したほか、工作部隊を見つけるための検問所が数多く設置され連合軍の行動を遅滞させることに成功しています。

物語の結末

ドイツ軍のガソリン不足を察知したグレイ少将は燃料集積所に連絡、ガソリンを渡さないように火をつけるように言い渡しますが、伝えた相手はドイツ軍の工作部隊でした。すでに燃料集積所は工作部隊によって占領されていました。
しかし連合軍の敗残兵によりドイツ軍の工作部隊は一掃されてしまいます。
そうとは知らずにやってくるヘスラー大佐。彼の率いる戦車隊に次々と転がされる火のついたドラム缶によって戦車隊は壊滅させられてしまいます。

冒頭連合軍の偵察機に追い回されたとき、ヘスラー大佐が部下のコンラッドに「エンジンは必ず切れ、ガソリンは血液と同じだ」いうセリフを言います。史実でもドイツ軍は燃料不足に悩まされました。このエンディングはもちろん脚色されていますが、実際にパイパー戦闘団はガソリン集積所を目指し、それを阻止しようとした連合軍は市街にガソリンをまいて火をつけ、パイパー戦闘団の進撃を阻止しています。

ちょっと気になるポイント

・撃たれた兵士が万歳をしながら倒れるのはこの時代の作品なので仕方がありません。
・ドイツ軍が英語を話す。これもアメリカ映画なので仕方がないですね。
ちなみにイギリス・西ドイツ合作の「戦争のはらわた」、アメリカ映画の「プライベートライアン」、ドイツ・オーストリア・イタリア合作の「ヒトラー最期の12日間」などドイツ軍がしっかりドイツ語を話す映画も数多くあります。
・映画後半の戦車戦が砂漠のような地形になってしまっていること。冬の寒いヨーロッパのはずが…。

総評 バルジ大作戦の評価は93点!

人物描写、脚本、戦闘描写どれも素晴らしく、戦争映画好きなら外せない1本となっています。
この映画を見てから史実のバルジの戦いを調べるのもまた面白いと思います。

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