皆さんは三体というSF小説をご存じでしょうか?
三体は、中国のSF作家である劉慈欣(りゅう・じきん)氏による長編SF小説で、アジア人初のヒューゴー賞を受賞しています。世界全体での累計発行部数は2900万部に到達するほどの人気を誇っています。
また日本語版は早川書房より発売され、日本でも爆発的なヒット作となっています。
2024年にはネットフリックスでドラマシリーズが配信され話題となりましたね。
ただその絶賛ぶりとは裏腹に、いざ小説を読んでみると「つまらない」「期待したほど面白くなかった」と感じる人は多いようです。
今回はなぜ三体がつまらないと感じるのか、その理由を考えてみたいと思います。
三体ってどんな作品?
三体は、中国を舞台にした本格的SF小説です。
文化大革命で肉親を失った天体物理学を専攻する葉文潔(よう・ぶんけつ)は、軍事施設である紅岸基地に配属されます。巨大なパラボラアンテナによって、西側の情報収集衛星を破壊する基地というのは表向きで、実は異星人とのコンタクト(いわゆるSETI=Search for Extra Terrestrial Intelligence=地球外知的生命体探査)を目的とした施設でした。
葉文潔は、この施設で働くうちに異星人である「三体星人」との接触に成功し…
というのがあらすじとなっています。
中国国内で圧倒的な支持を受け、ヒューゴー賞の長編小説部門を受賞。Facebook社のマーク・ザッカーバーグやバラク・オバマ、メタルギアシリーズで知られる小島秀夫など著名人の愛読者が多いことでも知られています。
2023年にはテンセントでドラマが配信されたほか、ネットフリックスでもドラマシリーズが製作され2024年に配信されています。
三体はなぜつまらないのか?
20か国以上の言語で翻訳され、全世界累計発行部数は2900万部を記録。アマゾンの日本語版には5885件ものレビューが書かれ、その評価は4.4点という高評価です。
ただ実際に読んでみるとつまらなく感じた、期待したよりは面白くなかったと感じた人も多いのではないでしょうか?その理由をあげてみたいと思います。
三体の登場人物がつまらない
三体を読んでみるといまいち物語に感情移入ができません。
これは出てくる登場人物に魅力が感じられないことが大きな理由だと思います。
中盤以降物語の主役となる汪淼(おう・びょう)は、何を考えているのかはっきりしません。
自らに振りかかった災難に対してVRゲーム「三体」をプレイすることになりますが、読者に三体世界を説明する役割に過ぎず、自ら主体的に行動を起こすことをしません。
では巻き込まれ型の主人公で物語がどんどん転がっていくかといえばそんなこともなく、ひたすら読者に三体世界を説明するためにログインを繰り返すだけの存在になっています。基礎理論の学者という肩書が物語に起伏を生まず、悪いほうに出てしまっています。
また真実を知ると思われる申玉菲(しん・ぎょくひ)は喋らないキャラなのですが、その特徴が彼女を引き立てるアクセントになっていません。
「エヴァンゲリオン」の綾波レイや「後宮小説」の江葉のような、喋らないけれど時折見せる感情やエピソードの感動的な描写もなく、あっさりと退場してしまいます。
酒見賢一氏の後宮小説に登場する江葉は、普段面倒くさがりで口数の少ないキャラですが、終盤戦いに不馴れな女性達に銃器の使い方を丁寧に教え、生き抜くために涙ぐましい努力をするさまは屈指の名シーンです。
魅力的に思えた史強(し・きょう)は、ハードボイルド風で活躍しそうでしたが、要所要所で突然登場するだけのキャラです。
インパクトが強い人物だけにもったいないと感じました。
魏成(ぎ・せい)もとてつもない天才にもかかわらず、その役割は三体問題を説明しているだけです。
彼の天才ぶりを長々と描いたわりには、その数学モデルはあっさりと否定されてしまいます。こちらも史強と同じくもっと彼の活躍が生きる展開なら、物語に起伏が生まれたのにもったいなかったです。
全体的に分厚い長編小説にもかかわらず、日常的な生活感や会話描写が少ないため、登場人物が平坦で物語に入り込みづらいのが、三体をつまらないと感じてしまう大きな原因だといえそうです。
その意味ではほんの少ししか出てきませんでしたが、三体星人の1379号監視ステーションの監視員のような内面の掘り下げが地球人側の登場人物にあればと思いました。
三体に出てくるVRゲームがつまらない
汪淼(おう・びょう)が何度もログインしてプレイすることになるVRゲーム「三体」。
読者に三体世界を説明する重要な役割を担っていますが、はたしてそのゲーム内容がスムーズに説明されていたかといえば疑問符がつきます。
三体世界の成り立ちや三体星人の生態を説明しており、地球人とはまったく異なったその社会が魅力的ですが、そこに始皇帝やらニュートンやら地球の歴史上の人物を出す必要があったのかどうか。なぜ三体世界に地球人がいるのだろうかと気になってしまいます。
HGウェルズの「タイムマシン」では、時間旅行者が現代と全く違った世界を自分の目で見て描写します。三体でも地球に対しての工作活動を議論する三体世界側の描写があるのだから、わざわざ紛らわしい形で過去の三体世界を表現したところで、読者にすんなりと世界観が入ってきません。
3000万の軍隊を使ってコンピュータを再現させるところなどは面白いのですが、その他の部分は冗長でもっと簡潔にできるでしょうし、三体を読む上でのハードルになっているのでは、と思いました。
三体の説得力のなさがつまらない
三体には読んでいるうちに疑問に感じる点がいくつかあります。
科学技術に関しては門外漢なので気になりませんが、ストーリー上で「ん?」と立ち止まってしまう部分がいくつもあります。
なぜ科学者が何人も自殺したの?
物語の序盤に物理学者が次々と自殺していき、それがストーリーの導入になっていますが、なぜ物理学者たちが次々と自殺してしまったのか?
「物理の法則が通用しないから」だとすると自殺の根拠としては弱すぎます。
知識人は人類滅亡をそんなに望むのか?
葉文潔(よう・ぶんけつ)ほどのバックボーンがあれば、「人類なんて滅んでしまえばいいのに!」という思考になるのは理解できます。ただそれが知識人たちに広まり、多数の賛同者を生み、無視できない勢力になり、となると話は別です。なぜ知識人たちに終末思想が広がるのか、その過程が簡略化されているので腑に落ちません。
重度の放射線被爆からそんなに早く回復できるのか?
史強は三体協会メンバーとの争いの中で、重度の放射線被爆を被りますが、わずか2日間の洗浄であっさりと復帰します(その後白血病に罹患しますが)。
爆弾が核分裂に失敗したから放射線が微量だったのかと思いましたが、本文には「重度の放射線被爆」と記載されています。放射線被爆が軽傷として描かれていることに違和感を感じてしまいます。
三体の軍事描写がつまらない
三体艦隊の探査機である水滴が地球側の三大艦隊と接触するシーンでは、手に汗握る宇宙戦争が繰り広げられます。この一連のシーンはこれぞSFという展開が繰り広げられる超おすすめシーンですが、やはりさまざまな疑問点が浮かんできます。
地球側は探査機である「水滴」との接触シーンですでに三体艦隊をなぜか大したことがない存在と捉えています。「三体艦隊をかたづけるのなんか朝飯前だ」という思考が蔓延しています。あれだけ三体艦隊を恐れていた人類がなぜこのような思考を持つようになったのか?「戦艦が光速の15%で航行できる」というセリフが何度も登場しますが、なぜそれで三体艦隊を脅威でないと思えるのか不明です。
三体艦隊を侮りまくった結果、探査機との接触に全艦隊を出撃させるという愚行を犯してしまいますが、これも戦略的にはありえません。
作中にも登場する銀河英雄伝説では、自由惑星同盟が帝国領侵攻作戦(アムリッツァの戦い)という同盟崩壊のきっかけとなるトンデモ作戦を実施しますが、相当数の反対派の存在はしっかりと描写され、また第1艦隊は防衛のため侵攻作戦には参加していません。
探査機1機に全兵力を参加させ、それに反対する、あるいは疑問を持つのがほんの数人というのは不自然ではないでしょうか?
三体を面白く読む方法
三体に抵抗のある人は、中国人の登場人物が覚えづらいという人が多いようです。
そこでおすすめなのは、この記事でも記載したように名前を日本語読みで読む方法です。
汪淼は「ワン・ミャオ」と読むよりも「おう・びょう」、葉文潔は「イエ・ウェンジエ」と読むよりも「よう・ぶんけつ」と読んだ方が素直に頭に入ります。
また科学技術に関する冗長な説明が多いですが、分からない部分はある程度飛ばして読んでも問題ありません。どうせ細かい説明をされても理解できないので、スルーしてしまいましょう。
まとめ
以上、三体がつまらなく感じる理由と面白く読む方法を考察してみました。
しかし、このような考察は三体が持つ壮大なストーリーに比べれば些細な問題です。なんだかんだと言いながらも読み進めれば、きっといつの間にか最終ページにたどりついているはずです。
冗長な部分は確かにありますが、そこはさっと読み飛ばして、この奥深い三体世界と人類の遭遇がどうなるか、わくわくしながら楽しむのがおすすめです。